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平成29年度 第3回金城大学プログラム 「なぜ、歩くとつまずくのか?『つまずき』を科学する」報告

 

日時:平成29年12月2日(土)13:30~15:00
場所:北國新聞会館20階ホール
講師:佐々木賢太郎氏(金城大学 医療健康学部教授)

学歴/立命館大学文学部哲学科心理学専攻
   九州保健福祉大学大学院保健科学研究科博士課程 博士(保健科学)
資格/理学療法士
略歴/岡山大学医学部歯学部附属病院総合リハビリテーション部
専門/運動療法

平成29年12月2日、北國会館にて、北國生きがい健康支援事業平成29年度第2回金城大学プログラムが開かれ、医療健康学部教授・佐々木賢太郎(ささきけんたろう)氏が「なぜ、歩くとつまずくのか?『つまずき』を科学する」と題する講演を行いました。二足で歩くヒトにとって「つまずき」は日常よく経験する現象ですが、「つまずき」から転倒し死に至ることもあります。これまでの研究成果から「つまずき」を科学的に明らかにします。

1.歩くとつまずく?

これまでは理学療法士として、転んで骨折し手術をした患者さんに対して、リハビリテーションで歩行能力を再獲得し、できるだけ早く社会復帰していただくことに注力してきましたが、金城大学では、逆の立場から、どうしたら転倒を防げるかについて研究をしています。
さて、歩くと長生きできるということについて多方面で研究が進んでいます。その中で、1日の平均歩数が多いほど脳卒中や心臓病などで死亡する危険性が減り、さらに1日当たりの歩数が1000歩増えるごとに6~10%減少、1万歩に増やすと死亡する危険性は46%減少するという結果が報告されています。
しかし、歩けば歩くほど転倒する回数は増加し、転倒で骨折すると、プライドまで折れて自信を失ってしまいます。また、転倒・転落による事故の死亡率20.4%は交通事故の死亡率14.6%よりも高く、転倒の半数以上は「つまずき」によって引き起こされています。
「つまずき」はごくありふれたことですが、何が原因でつまずくのか、実はよくわかっていません。そこで、金城大学の学生と白山市の元気な高齢者を対象にした調査研究から「つまずき」を科学的に解明していきます。

2.つまずきの要因は3つ

なぜ、つまずくのか、若者も、高齢者も誰でもつまずきます。そこには何が関与しているのか、歩き方、身体的イメージ、脳力という3つの視点から考えます。

■歩き方

ヒトは、支える足と振り出す足の動作を交互に繰り返して歩きます。その、振り出す足のつま先が下に向かって振り出されるときに「つまずき」が起こることが解りました。通常、足が振り出されるとき、床とつま先の距離はおよそ1.5cm、これが0cmになると「つまずき」が起こります。このつま先の高さは膝の曲がり方に影響され、膝の曲がり方は地面を蹴ることで大きくなります。
「つまずき」を減らすための歩き方には、地面を蹴って膝を曲げることがポイントで、そのためには足指の柔軟性と筋力が大切と示され、柔軟性を高める運動やストレッチ方法が紹介されました。

■身体イメージ

つまずいた後に「足を上げたつもりが上がっていなかった」とよく言いますが、これは感覚と身体のイメージのズレ(誤差)よるものと言われています。実際に、金城大学で身体イメージ計測装置を開発し、このイメージのズレを年代別に計測した結果、70歳以上の方からズレが1.5cm以上になることが解りました。この1.5㎝と言う数値は、振り出した足のつま先と床との距離と同じことから、感覚が鈍くなると実際の身体とのズレが生じ、つまずくことが解明されました。ぜひ、定期的に鏡に映る自分の身体をチェックして、感覚と身体イメージとのズレを解消していただきたいと思います。

■脳力

床とつま先の距離の平均では、年齢による大きな差はありませんが、高齢者に「つまずき」が多いのはなぜなのか。
高齢者は若者に比べて、床とつま先の距離にバラツキが大きくなる傾向が見られ、この原因には、脳力つまり注意力と認知力が関与すると考えられます。認知機能が低下した人は、低下していない人に比べて、歩行のバラツキが大きく、一定していないため2倍以上転倒しやすいという研究結果から、脳の遂行機能の中枢である前頭前野が、加齢に伴い顕著に萎縮する(65歳で10%が萎縮すると言われている)ことから起きるのではないかと言われています。
また、ストループテストや課題をしながら歩く(脳力を使いながら歩く)と、身体の筋肉が緊張したり、重心の動揺が大きくなって転倒しやすくなります。
これらのことから、元気な方の「つまずき」による転倒を予防するには、2つ以上のことを同時に行う筋力と脳力の同時トレーニングが有効と考えられます。実際、歩行と認知課題の同時トレーニングで脳の前頭前野の血流が改善し、遂行機能の改善の可能性があることから、加齢に伴う認知機能の低下の改善と、転倒防止効果が期待できると示唆されました。
聴講者も参加して、筋力と脳力の同時体操の中から、肩甲骨の運動と頭の体操を合わせた「ジャンケン」と足踏み運動と合わせた「数字」を実践し、日常への取り入れ方も紹介されました。


 

 

3.しめくくりに

「つまずき」を予防するためには、地面を蹴って膝を曲げる、足の指を使う歩き方、身体の活動量を維持し、感覚を定期的にチェックする、筋力と脳力を同時にトレーニングする事が大切で、「躓き」は足の質と書くように、質の良い足を保っていくこと、そして果報は寝て待つのではなく、しっかり運動して自ら保つことが必要だと結ばれました。

講演後、身近な関心事として多くの質問があり、中でも地域格差による運動機能や能力の違いについては、現在、研究課題として取り組んでいることや、人工関節での歩行時の注意にまで話はおよび、和やかにプログラムを終了しました。