NEWS 第10回保健・医療・福祉創造フォーラム 切れ目ない包括的な支援

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第10回保健・医療・福祉創造フォーラム 切れ目ない包括的な支援

金城大学は今春、看護学部を新設し、白山市との保健医療福祉分野でのさらなる連携を図るとともに、地域に根差した大学づくりに努めています。来る2025年に向けて、地域で暮らす人々の健康について考えるため、この度10回目となる<保健・医療・福祉創造フォーラム>を開催いたしました。

日時 平成27年11月28日(土)
会場 社会福祉学部棟(S棟)110大講義室
スケジュール 12:45~13:00 開式
13:00~14:00 講演
■テーマ:住み慣れた地域で共に暮らす人々の健康を考える ~教育、NPOの立ち上げ、家族としての体験から~
講演者:金川 克子 氏
(NPO法人いしかわ在宅支援ねっと理事長、石川県立看護大学名誉教授、金城大学特任教授)

14:15~15:55 シンポジウム
■テーマ:白山市における切れ目のない包括的支援をデザインする

15:55~16:00 閉式

 

大会長の挨拶

半谷 静雄氏(金城大学 学長)

開会にあたり、半谷学長が「金城大学は、福祉・介護、リハビリテーション、そして看護の3つの学部を備えた、北陸の私学では唯一の大学です。今回のフォーラムは10回目ということで、元県立看護大学学長の金川先生、そしてそれぞれの分野における先達であられる方々にご賛同いただき、お話しいただけることとなりました。是非ご参加いただいた皆様にとりまして、このフォーラムが白山市をより良くするためのアクセラレーターとなり、皆様が達者で幸福の「達福」でお過ごしいただけるためのお役に立てたら幸いです。」と挨拶しました。続いて来賓祝辞があり、金川克子氏の講演に移りました。

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講演

住み慣れた地域で共に暮らす人々の健康を考える
~教育・NPOの立ち上げ・家族としての体験から~

金川 克子氏(NPO法人いしかわ在宅支援ねっと理事長、石川県立看護大学名誉教授、金城大学特任教授)

●看護教育に期待するもの

看護教育では、良い看護師を養成することが一番大事だと考えています。ここで、良い看護師とはどのようなものかと考えますと、第一にやさしさが必要だと考えます。入院で手術をする場合、最初は採血や検査、術後の傷跡が良くなってきたかなどの医療面での対応が主ではありますが、しばらく経つと車椅子での対応や退院した後の日常生活をどのようにしたらよいかという意味での対応など、その時々にやさしさが大事です。もちろん、やさしさだけではなく、採血の方法などの看護技術も必要です。しかし、患者の気持ちや悩み事を上手く引き出し、患者のことを しっかりと看ることができるような看護師になって欲しいと思っております。

●看護することの意味

私は1959(昭和34)年の3月、まだ看護職が本当に独立しているとは言えない時代に大学を卒業いたしました。その時の先輩である先生が、「看護覚え書き」という冊子の中で、看護の基本的な考え方として次のようなことを言っておられます。

  • 看護とは患者の生命力の消耗をできるだけ少なくするためにこまごまと考えることである
  • 看護とは生命力を高めるためにさまざまな支援をすることである
  • 看護とは患者の自立、日常生活への適応、正常な成長・発達・老化を助け、その人らしい生活の営みを手助けすることである

これは、患者の環境をどう整えるのか、そして予防的なことをどのように行うのか、ということです。年を重ねるとどうしても衰えが出てくるが、いかにその人なりの尊厳を守った正常な衰えかたに近づけていくのかということです。これらは、どれもとても難しいものです。看護は、病気そのものというよりも、生活の場であるとか生活をする人であるとかを通して、人間を全体として捉えます。疾病を持つ方のみならず、未病の方も含め、日常生活が十分にできる、予防をきちんとできるといった、自分の健康管理をできるだけ支援していくことが看護だと言えるのではないかと思います。

●看護職の役割、働く場の広がり

現代は、病人だけではなく、高齢者やこどものケアニーズが拡大しています。また、特に終末期の患者をどう看取るのか、という看取りの問題も大きくなっています。どこの場でどうやって看取っていくのか、そしてそれに携わる人たちへの支援をどうしたらよいのか、ということを考えていかなければなりません。その中で、看護職の抱える問題や課題も非常に多く出ております。一つの職業としての看護の役割や機能が増大・拡大しており、それを担う人材を養成する教育機関が増えてきています。看護教育の多様性のために、教育機関の種類・特質によって看護師の違いが出てきますので、その違いも見ていかなければならないと考えております。そして、働く場が多くなってきたということで、いろんな方たちとチームの一員として支援していくことの重要性もあります。患者にとっては、意図を汲んでくださるような、多くの情報を上手く統合して説明してくださることが、私自身の受けた経験としては必要だと感じます。

●家族として考えること

家族として見たときに、切れ目ない形で対応していくためにはどのようにしていくべきでしょうか。例えば、自宅で療養を希望する人と家族の人や地域の人たちとの間にも、若干の乖離があります。それをどのように埋めていったらよいのかを考えていかなければなりません。それには、いろいろな制度や社会支援として、どのような社会資源が、どのように利用できるのかを知ることが大切です。住んでいる地域の事情や医療の情報をしっかりと把握し、医療従事者との相談やコミュニケーションなどを行うことが大事だと思います。

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シンポジウム:白山市における切れ目のない包括的支援をデザインする

日常生活の中で最期が迎えられる地域づくり

浅見 美千江氏(金城大学看護学部 准教授)

現在、白山市には石川県医療在宅ケア事業団が運営する訪問看護ステーションが計4か所あります。直近1カ月の4か所の利用者実人数は173人、訪問延回数は1,178回で、医療処置を必要とする方々や介護を必要とする方々が訪問看護サービスを利用しながら住み慣れた自宅で生活している様子がうかがえます。また、治療を終え、病院ではなく自宅で最期を迎えたいと希望する方々に24時間365日の対応を行いながら、自宅での看取りを支援しています。
今回のテーマである「切れ目のない包括的支援をデザインする」うえで、住み慣れた地域において、親しい人々が暮らす生活の場で最期を迎えることは、地域包括ケア体制の最終的な主眼であると考えます。
家族の力のみでは自分の人生を完結できない時代を迎え、地域のケア体制を整えることにより、最期の過ごし方を選択できる地域づくりが求められています。

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地域包括ケアにおけるリハビリテーションの役割

岩下 琢也氏(金沢QOL支援センター 代表取締役)

今、日本は超高齢社会です。日本の高齢化率は世界でも類を見ないスピードで上昇しています。また、2025年には、団塊の世代の方々が後期高齢者を迎えるにあたり、少子高齢化である日本の社会保障は危機的状況になるとも言われています。その懸念があり、今後、医療費が膨大にかかる入院医療は早期退院、在院日数の減少が強く言われております。
地域包括ケアの中でのリハビリテーション職の大きな役割、そして専門性(強み)は「その人の”生活”を医学的な知識・技術で評価、アプローチし、QOL(人生の質)向上に寄与できる」ことだと考えています。
私たちの役割、専門性を地域の中で発揮し、よりご利用者様に価値を提供するためには、その方に関わる様々なフォーマル、インフォーマルなサービス、そして多職種、多機関・多事業所が如何に顔の見える連携、シームレスな連携が図れるか、が最も重要だと考えます。

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公立つるぎ病院の取り組み

針道 佳世美氏(公立つるぎ病院 在宅療養支援部入退院支援室 室長)

国は治す医療から治し支える医療への転換を進め、病院には効率性と機能分化が求められています。急性期から回復期、そして在宅医療へと、患者が住み慣れた町で必要な医療・介護を受け、望む療養生活が実現できるよう、病院はそれぞれの役割に応じて退院支援していくことが重要です。
公立つるぎ病院では、急性期病院で治療を終えた方の治療、近隣診療所からの紹介を受けての治療等、在宅復帰を見据えた医療を担い、近隣診療所と連携する在宅療養支援病院で訪問診療体制も整えています。また、医療・介護が必要になっても、患者や家族が望む暮らしを実現できるよう、当院では多職種が退院支援に関わっています。
今後、認知症高齢者の増加が見込まれており、療養生活上のさまざまな疑問や課題に対して、誰でも、気軽に相談できる病院の体制づくりを積極的に進め、地域の中の病院としてあるべき姿を求めていきたいと考えています。

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地域包括ケアシステム構築に向けての行政の役割

池田 紀子氏(白山市健康福祉部長寿介護課 課長)

すべての高齢者が尊厳を保ちながら、住み慣れた地域でいつまでも健やかに安心して暮らせるように、白山市では(1)在宅療養と介護の連携、(2)認知症施策、(3)介護予防、(4)生活支援サービスの充実・強化の4つを重点施策として掲げ、団塊の世代が75歳を迎える2025年に向けて、医療・介護・予 防・住まい・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築を進めていますが、平野部から白山ろくまでの広い市域を擁しているため、地域特性も様々で あり、課題の解決は地域単位で行っていく必要があります。
今後の地域包括ケアシステム構築に向けた方向性については、市民や関係機関に周知し、 (1)自助、(2)互助、(3)共助、(4)公助を適切にコーディネートしながら、それぞれの地域で今ある資源を活用し、また、不足する資源やサービスを開発していく地域づくりが、市としての喫緊の課題です。
地域での多岐にわたる生活課題に対して、住民が主体となって取り組み、介護予防や地域の絆の構築につながるよう支援することが、行政の役割であると考えます。

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白山市における切れ目のない包括的支援をデザインする

金川 克子氏(いしかわ在宅支援ねっと 理事長)

統計によれば、2010(平成22)年現在の白山市の65歳以上の高齢者は、22,807人(20.7%)、75歳以上は10,979人(10.0%)となっていますが、年々増加しています。
国は2025年を目途に高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的で、地域包括ケアシステムの構築を推進しており、地域包括ケア体制つくりには、住民を取り巻く、保健・医療・福祉の連携のみならず、多領域との連携が必要です。具体的には多機関・部署間や多職種間の充実した連携が課題であると言えます。
高齢者自身は住み慣れた地域や家庭で(療養)生活が遂行できることを望む割合は多いと思われますが、そのためには家族介護力や住宅の条件整備など多くの課題があります。
現在高齢者を取り巻く支援制度はかなり整備されていると思われますが、高齢者自身もその能力に応じて、自立することが必要です。

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コーディネーター

杉本 尚樹氏(公立つるぎ病院 病院長)

シンポジウムの最後に、コーディネーターを務められた杉本氏より、「今日は、白山市の状況や、皆さんがどのような思いで取り組んでいるかということについて、各専門の方からお話しいただきました。とても分かり易いお話しで、参加者の皆様にも分かっていただけたのではないかと 思います。今後は、この先どのように取り組んでいくのかということが大事ですが、皆様のお話により、進むべき道も見えてきたのではないかと思います。」と結びました。