NEWS 平成28年度 第1回金城大学プログラム看護講演
「健やかな老後の暮らしを考える」報告

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平成28年度 第1回金城大学プログラム看護講演
「健やかな老後の暮らしを考える」報告

 

日時:平成28年7月9日(土) 13:30~15:00
場所:北國新聞会館20階ホール
講師:樋貝繁香氏(金城大学 看護学部教授)

   学歴/山梨大学大学院医学工学総合教育部看護学(修士)
      山梨大学大学院医学工学総合教育部ヒューマンヘルスケア学(博士)
   資格/看護師、新生児蘇生法一次コースインストラクター
   職歴/国立甲府病院(現 独立行政法人国立病院機構甲府病院)
      東京医療保健大学 小児看護学助手
      自治医科大学看護学部 小児看護学講師
      群馬県立県民健康科学大学看護学部 乳幼児期・学童期 准教授
   専門/小児看護学、新生児看護学
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平成28年度第1回金城大学プログラム看護講演において、看護学部教授・樋貝繁香(ひがいしげか)氏が「健やかな老後の暮らしを考える」と題する講演を行いました。
2025年、世界に類のない超高齢社会に突入する日本。私たちは、住み慣れた地で暮らし続けるには、どうすればよいのでしょうか。白山麓地区の調査をもとに、高齢者の暮らし方や地域のケアについて提案が示されました。

 

 

社会的背景

 

高齢社会の現状

昨今、たびたび話題となる「2025年問題」。2025年に、800万人もの「団塊の世代」が75歳以上に達することで生じる諸問題のことです。15歳~64歳の生産人口は減少し、日本人の5人に1人(2179万人、18.1%)が75歳以上となる超高齢社会の到来。医療・介護・福祉サービスの需要が高まるため、医療介護の負担と給付が大きく変わり、社会保障財政の運営に重大な影響をもたらすと見られます。
「高齢社会」を定義するとこうなります。高齢化社会は65歳以上の高齢者が7%を超えた社会、高齢社会は65歳以上が14%を超えた社会、超高齢社会は65歳以上が21%を超えた社会のように区分されます。高齢化社会から高齢社会に至る年数を「高齢化のスピード」といい、日本では高齢化社会の始まりは1970年、高齢社会は1994年、わずか24年間です。フランスでは114年。日本の高齢化のスピードがいかに著しいかがわかります。

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高齢社会におけるさまざまな問題

こうした現状に、いまの社会保障制度は対応できるのでしょうか。従来の社会システムは、ピラミッド型の人口構造に合わせて制定されました。実際には人口構造が高齢者側に大きく偏り、これに対応した社会制度を構築することが課題となります。
現在、75歳の身体能力は10年前に比べ、65歳と同等です。昔は農業などの第一次産業が中心で定年はありませんでした。現在は第三次産業が台頭し、定年によって働く場がないという問題も生じています。
一方、疾患別の死に至るパターンを見ると、がんの場合、死亡の数週間前で身体機能は保たれ、以後急速に低下します。心臓・肺・肝臓など臓器不全の場合、徐々に重症化し、同時に機能も低下します。老衰・認知症などの場合は、長期間にわたり徐々に機能が低下します。残存する身体機能を使って工夫をし、どう生きるべきかが課題となるわけです。
日本の医療体制は、病床区分(高度急性期・一般急性期・回復期・慢性期・療養期)を上から下へ並べ、緊急性の高いものほど病床数が多い「ワイングラス型」。しかし、いまや、高齢者の長期療養を考慮した「ヤクルト型」体制に変換を迫られています。

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これからは地域包括ケアが重要に

これまで高齢者介護はどのような形態をとってきたのでしょうか。1999年までは家族によるケア、2005年までは社会によるケア、そして2006年以降は地域によるケアへシフトしています。
高齢者のケアニーズの増大、単独世帯の増加、認知症を有する人の増加により、地域包括ケア=地域における包括的・継続的なケアの仕組みが求められているのです。2025年に向け、地域を基盤とするケアと統合的ケアとを融合する方策が各地域で検討されています。

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住んでいる地域を知る~白山麓地域を例に

 

地域包括ケアを考えるには地域を知ることが不可欠であり、白山麓地域を一例に取り上げました。

白山麓は魅力的なところ

白山市は2005年、1市2町5村の合併により誕生しました。私は白山麓を訪れるようになって2年、いろいろなことを見つけました。白山麓の5地区にはそれぞれの特徴があり、どの地区も豊かです。河内は昔、銀山で栄えたところで、固豆腐、平家そば、くるみ味噌など昔ながらの食が伝わっています。鳥越は手取峡谷やバードウォッチングなど自然に恵まれ、浄土真宗ゆかりの地。吉野谷は、面積の約97%が森林で良質な温泉が自慢。尾口は、ここから積雪がひと際多くなるという印象。人形浄瑠璃「でくまわし」が伝承され、その後継に腐心していると聞きました。白峰は霊峰白山の登山口。出作り、牛首紬など独特の民俗文化があります。重要伝統的建造物群保存地区に指定された集落の景観がすばらしいです。
白山市全体の高齢化率は25%ですが、白山麓地区では37.7%。全国平均26%より上回っています。
白山市は人口ビジョン総合戦略作成の基礎資料として、20歳~39歳の2000人を対象にアンケートをしたところ、白山麓には居住年数が20年以上の人が40%もいます。しかも、30%以上がずっとここに住みたいといいます。ところが、定住意向はある人も、医療・福祉、交通、余暇施設への不満や不安をもっています。白山麓では、健やかに安心して暮らせることが課題ということです。
では、白山麓の医療を見てみましょう。吉野谷、中宮、白峰に診療所、吉野谷の大門園には白山ろく訪問看護ステーションがあります。吉野谷診療所には、かかりつけ医として住民の信頼を集める橋本宏樹先生がいらっしゃいます。これまでに2回、「赤ひげのいるまち」という番組で紹介されました。

【番組の録画画像を視聴。以下、内容紹介】
在宅療養を望む高齢者、自宅で親を看取りたい家族のため、橋本医師は訪問治療に尽力する。医療は、治す医療だけではない。高齢者の人生の終末をその家族とともに見守る「支える医療」が今後重視されていくだろう。
橋本医師は、必要な場合は患者さんを大病院へ紹介する。診療所と基幹病院のネットワークを強固にし、より良い在宅治療を模索。また、若手研修医を受け入れることで、僻地医療を希望する後進を輩出したいと願っている。

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金城大学看護学部の「やまの保健室」

金城大学看護学部では、一次予防のための「やまの保健室」を開設したいと考えています。
一次予防とは、適正な食事や運動不足の解消、禁煙や適正飲酒、ストレスコントロールといった健康的な生活習慣への取り組み(健康教室や保健指導など)、予防接種、環境改善、事故防止などのことです。都市には一次予防の専門家がいますが、山間部にはいません。一次予防は、個人ひとりで臨むのは難しい。ひとと共に活動する場が必要です。
「やまの保健室」を開設するには、地域調査、インタビュー、アンケートを用いて住民の衣食住、住民のニーズを知ること、そして継続的に活動できる体制を整えることが必要です。

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白山麓で安心して暮らすために必要なこと

白山麓での生活やニーズについてわかったことをまとめました。
生計については、以前は林業、伝統工芸、観光、スキー、手取ダム管理などに従事していましたが、最近は白山麓の外で就業する人が増えています。
コミュニティについては、温泉、公民館、グラウンドゴルフ、寺・道場があげられます。公民館では、住民が寄り合ったり、生活サポートを行ったりしています。子供の遊びの催事、料理教室などの活動も盛んです。また、白山麓は浄土真宗の根強いところで、道場など説法の場が今も残っています。
食事については、農業に従事する人が多く野菜類は自給でき、JAや生協が利用されています。配食サービスや食品の巡回販売などがあり、食材の調達では特に困っていることはないそうです。
医療・福祉については、前述のとおりです。在宅医療を支える体制の一つに「白山ろくサービス連携会議」があり、医療、介護、福祉など多職種の人たちが連携してネットワークの構築を図っています。
これらの調査で見えてきた課題は、次のようなことです。
・雪下ろし、雪で外出できないなど積雪の害
・免許がないとバス・タクシーを利用するしかない不便
・眼科や皮膚科など専門医の不在
・主食に偏りがちなど食事・栄養の問題
・男性の交流の場が少なく閉じこもりの問題
・高齢者が多く認知症や介護への不安
・子どもが交流できる場が少ない。
これらの課題に対し、閉じこもりがちになる高齢者や遊びの場が少ない子どものために、住民が集う交流の場として「やまの保健室」が地域とタイアップして取り組めるのではないか、と考えています。

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いつまでも健やかな生活を送るために

 

佐藤雅彦氏に学ぶ

佐藤雅彦さんの著作「認知症になった私が伝えたいこと」をご紹介します。51才でアルツハイマーと診断されても、工夫を重ねてひとり暮らしを続けています。認知症になると不便なことは多いけれど不幸ではない。認知症になってもいろいろな能力が残っていて、自分がどのように生きていくかを自分で決められる。「認知症になっても人生をあきらめない」と、佐藤さんは私たちに語りかけています。そして、認知症の症状を進行させない秘訣をあげています。
・できることは自分で進んでやる
・積極的に外へ出て活動する
・やる前から諦めず、まずは始める
・ストレスが溜まることはすぐやめる
・十分な睡眠をとり規則的な生活を送る
・美しいものを見たり楽しいことをしたりして気晴らしをする
・生かされていることに感謝する
・役割をもって充実した人生を送る

また、健康なうちに準備しておくとよいことも記しています。
・将来どこに住み、どんな暮らしがしたいかをまとめておく
・自分史を書く
・財産目録を作成する
・家の登記簿をまとめておく
・遺言書を作成する
・終末期医療の治療希望を書いておく
・自分が死亡した時の連絡先をまとめておく
・パソコンやタブレット端末の操作を覚える
・不必要なものは早めに捨ててシンプルな生活を心がける

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生き方・暮らし方の自己決定ノートを作ろう

高齢になると人と会話をすることがとても大切です。白山ろくでは自助グループの集まりが活発で、週1回、昼食をとって温泉につかったり、体操や手作業をしたりという活動を行っています。20数名の参加者はたいへん楽しみにしているそうです。
また、健康なうちに自分の生き方・暮らし方を見直して、これからを考えることが必要です。そのための一つの方法をご紹介しましょう。
①過去:「自分史」と「安心マップ」:これまでの人生を振り返って自分史に著し、仕事や生活に関する資源、人、および財産の状況を安心マップに著します。
②現在:生き方・暮らし方の自己決定ノート:健康、生活習慣、気持ちなどについて現在を把握し、老後を考えます。
③未来:老後と地域の未来予想図:①②を通して老後の生き方・暮らし方、地域社会の姿と自分の役割を考えます。

 

しめくくりに

自分の生き方・暮らし方を見直したり老後を考えたりすることは、ひとりではなかなか難しい。私たちの「やまの保健室」でもサポートしたいと思います。白山麓の住民の方々、専門職、行政機関との協力体制も重要になります。やまの保健室では、次のような活動を検討しています。
・3B体操(坐ってできる簡単な体操)
・認知症講座
・自分の生き方、暮らし方の勉強会
・健康、生活の相談
・自助活動の場
・料理教室
・老いや看取りの勉強会
・介護やリハビリの勉強会

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金城大学には看護学部、医療健康学部、社会福祉学部があり、予防、介護、リハビリに関する取り組みへの一助となれると思います。いつでも、だれでも、ほっとできる場としての「やまの保健室」をぜひ実現したいです。
今回の内容をまとめます。5年後、10年後も地域に住み続けるには?
自分の住んでいる地域を知ること、自分の周りの人を知ること、ひとと繋がり、自分の生き方を考えることです。